QRコード決済サービス事業者が相次いで大規模なキャッシュバックキャンペーンを行ったこともあり、国内においてもキャッシュレス決済が改めて注目されるようになりました。
一方、キャッシュレス先進国と呼ばれる諸外国と、日本のキャッシュレス決済比率を比較すると、そこには依然として大きな開きがあります。
そこで、本コラムでは、キャッシュレス先進国の具体的な取り組みや最新事情を紹介しつつ、日本におけるキャッシュレス決済普及の可能性を考察していきます。
諸外国のキャッシュレス化比率と日本の状況
2019年4月に発表された経済産業省の報告書(※1)によれば、日本のキャッシュレス決済比率は2015年時点で18.4%となっています。
一方、キャッシュレス決済比率上位の国々の状況を見ると、韓国は89.1%、中国で60%となっているほか、ヨーロッパ諸国も軒並み40〜60%という状況です。
そして、次項では、キャッシュレス決済比率の高い国々の取り組みを具体的に紹介します。
(※1)経済産業省 キャッシュレス・ビジョン
https://www.meti.go.jp/press/2018/04/20180411001/20180411001-1.pdf
キャッシュレス決済「先進国」の取り組み
韓国の場合 ~政府によるキャッシュレス推進~
2015年時点で89.1%と、際立って高いキャッシュレス決済比率を誇る韓国。その背景には、1997年の東南アジア通貨危機があります。
タイの通貨・バーツの暴落に端を発する通貨危機は、韓国にも大きな経済的打撃を与えました。縮小する経済への対策として、韓国政府は消費者向けの与信を拡大して消費を喚起することを決定。
そして、今日に至るまで、キャッシュレス決済を利用した際の消費者向け減税制度、クレジットカードを利用した宝くじ、カード加盟店の手数料の規制、店舗のクレジットカード取扱義務化など、様々な角度からクレジットカード決済の普及を推し進めてきました。
結果として、クレジットカード・デビットカードを中心としてキャッシュレス決済比率が高まり、現在では大型店舗だけではなく、個人商店でもクレジットカードが使用できる店舗が一般的となっています。
中国の場合 ~スマートフォンの普及とともに、モバイル決済が主流に~
広大な国土を持つ中国は、現金の輸送コストや偽札問題など、もともと現金経済に多くの課題を抱えていました。そのため、スマートフォンが爆発的に普及すると、キャッシュレス決済も多くの人に好意的に受け入れられました。
中国については、とりわけ都市部を中心にスマートフォンを利用したQRコード決済サービスが普及していることが特徴的です。代表的なQRコード 決済サービスには、「Alipay(支付宝)」「WeChatPay(微信支付)」の2つがあり、両サービスは、友人同士で気軽にご祝儀を送り合うことのできるキャンペーンなど通じ、利用者を増やしてきました。
また、事業者側も印刷したQRコードを店頭に掲示するだけで導入可能なため、小規模な店舗でもコストをかけずに導入できたことも、QRコード決済が爆発的に普及した一因と言えます。
イギリスの場合 ~伝統的な小切手社会からデビットカードへ~
イギリスの2015年時点でのキャッシュレス決済比率は54.9%。従来、小切手を利用した決済が一般化していたこともあり、独特なアプローチでキャッシュレス化への歩みを進めています。
1950年代のイギリスでは、小切手の個人利用が拡大する中で、不渡り小切手の数も増加。結果として小売店が小切手の受け取りを拒否する騒動が起きていました。これに業を煮やした銀行は、小切手の価値を保証する「小切手保証カード」を発行し、不渡りになった小切手もカード限度額までは支払う形で対応しました。
その後、小切手保証カードは銀行キャッシュカードと一体化するようになり、やがて1980年代に登場するデビットカードへと姿を変えてきました。こうした経緯から、イギリスのキャッシュレス決済は、その多くがデビットカードで行われています。
さらに、2007年には非接触(コンタクトレス)カードが登場。それまで暗証番号による認証が必要だったデビットカードでの支払いが、端末にかざすだけで手軽に決済できるようになりました。
これをきっかけに、現金の代わりとして少額の支払いにもデビットカードを利用する人が増加。イギリスのキャッシュレス決済比率が急激に高まりました。
スウェーデンの場合 ~国民の安全を守る社会インフラとして開発された「Swish」~
2015年時点で48.6%というキャッシュレス決済比率を誇るスウェーデン。この国でキャッシュレス決済が受け入れられた背景には、銀行や小売店、交通機関での強盗事件が増え、労働者が安全を求めて現金の取り扱いを廃止するよう声をあげたことがあります。
防犯を理由に現金での支払いを拒否する店舗が増える中、政府も高額紙幣を廃止するなど、国家レベルでキャッシュレス社会に向けて舵を切っています。
そして、現金の代わりに利用されるようになったのが、社会インフラとして開発された「Swish」です。
Swishはスウェーデンの大手6銀行とスウェーデン中央銀行が協力して開発を手掛けた、送金・支払いサービスで、銀行口座を持っていれば誰でも利用できるうえ、異なる銀行間のリアルタイムな送金も可能です。
先ほども取り上げた経済産業省の資料(※1)によれば、Swishの年間利用額は140億クローナ(約1,800億円)で、利用者は毎年100万人ずつ増加中。2017年時点で、スウェーデンの総人口約1,000万人のうち、約60%に当たる、597万人が利用しているとされています。
キャッシュレス決済先進国に向けて歩み始めた日本
ここまでご紹介したように、すでにキャッシュレス決済の普及した国々の状況を見ると、その背景には下記のような取り組みがあったことがわかります。
・政府等による減税・補助金・サービス開発などの政策実行(事業者の参入障壁突破)
・決済サービス事業者によるキャンペーンの実施(消費者の利用拡大)
・国家の課題や国民性に合わせたキャッシュレス・システムの導入(最適なサービス)
一方、これまでの日本の状況を振り返ると、伝統的に現金への信頼が高く、小切手の個人利用も浸透していないなど、上に挙げた国々と比べるとキャッシュレス化を求める声は少数でした。
しかし、2020年の東京オリンピックに向けてさらなるインバウンドの拡大が予想される中、日本のキャッシュレス決済への需要はかつてないほど高まっています。
加えて、多くのキャッシュレス決済事業者が積極的にキャンペーンを展開し、政府主導のキャッシュレス化推進事業も間近に控えている今、日本国内でのキャッシュレス決済の普及は目の前に迫っている状況です。
こうした波に乗り遅れないためにも、キャッシュレス決済未導入の店舗・事業者の方は、今一度その必要性について検討してみてはいかがでしょうか?
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