近年、飲食業界では高い離職率が課題となっています。多忙を極める労働環境やモチベーションの低下などが主な原因と考えられます。

そんな中、離職率を改善するための施策として「リテンションマネジメント」に取り組む企業が増えていることをご存知でしょうか?

本コラムでは、リテンションマネジメントについて解説するとともに、具体的にどのような取り組みが行われているのかを実際の事例を交えて紹介します。

飲食業界で離職率が高い背景

農林水産省が公開している資料(※)によると、2014年3月の大学卒業者の就職後3年目までの離職率は、「宿泊業、飲食サービス業」で50.2%となっており、全産業平均の32.2%と比較しても大幅に高い数値となっています。

こうした高い離職率の背景には、長時間労働や所定外労働の発生など、飲食業界の過酷な労働環境があります。慢性的な人手不足に陥り、1人あたりにかかる負担が大きくなり続けるなかで、長時間労働・所定外労働から抜け出せずに社員が疲弊していく…。そんな状況に直面している飲食店が少なくありません。

また、働くモチベーションを維持できずに離職してしまうという社員も少なくありません。企業の経営理念が従業員に十分共有されていないことや、会社経営陣と社員のコミュニケーションが不足していることなどが原因と考えられます。

こうした状況の中、飲食業界では離職率の改善につながる取り組みとして「リテンションマネジメント」に注目が集まりつつあります。

(※)農林水産省食料産業局「外食・中食産業における働き方の現状と課題について」
http://www.maff.go.jp/j/shokusan/kikaku/hatarakikata_shokusan/attach/pdf/04_haifu-11.pdf

「リテンションマネジメント」とは?

リテンションマネジメントとは、企業経営陣(あるいは店長やエリアマネージャーなど)と社員(あるいは店舗スタッフ)との間に良好な関係をつくり維持していくこと、またそのための施策を指します。具体的には、「長期休暇制度」による労働環境の改善や「家賃補助制度」による福利厚生の充実といった施策が該当します。

リテンションマネジメントでは、能力や個性に応じた、柔軟で風通しの良い職場環境の構築が重要とされており、こうした取り組みが成功すれば、企業にとっては社員の離職を防ぐことができ、従業員にとっては働きやすさが向上するため「Win-Win」の関係を築くことができます。

そして、最近ではリテンションマネジメントの一環として、社員研修を充実させることで職場環境の改善を図る飲食企業が増えています。

・飲食店のユニークな社員研修事例

リテンションマネジメント

パブの本場・ロンドンで海外研修(株式会社ハブ)

国内最大手の英国風パブチェーンを運営しているハブでは、入社式と合わせて5泊7日の研修をイギリスで行なっているとか。この研修を通じて新入社員にパブの本場を体感してもらうとともに、自社の経営理念の浸透を図ることが目的です。

この研修の他にも、夏季冬季連続休暇やリフレッシュ休暇、自己啓発支援制度など、社員が働きやすい環境を整えるために福利厚生を充実させており、離職率7%前後という飲食業界では驚異的な数値を記録しているそうです。

串カツ検定でスキルアップ(株式会社カツ田中ホールディングス)

直営店とフランチャイズ店を合わせて、全国に200店舗以上を持つ串カツ田中は、社員・アルバイトスタッフが作る串カツのクオリティに点数をつける独自の社内検定「串カツ検定」を年2回のペースで実施しています。

これは、作った串カツを評価してもらうだけでなく、同時に指導を受けることもでき、段位認定されるもので、串カツのクオリティ向上や社員・アルバイトスタッフのモチベーションアップといった効果が見られているそうです。

また、串カツ田中には「研修センター店」という店舗もあります。新人のみの不慣れな営業となっている代わりに低価格でドリンクが提供されており、人気店のひとつとなっています。

VRで農業体験(株式会社エー・ピーカンパニー)

エー・ピーカンパニーが運営している居酒屋チェーン・塚田農場では、アルバイトスタッフが食材の生産過程を体感できるよう、地鶏を生産する養鶏場での実地研修制度を設けています。

そして、この研修をさらに浸透させるために、VR(Virtual Reality)を導入。セミナールームで受講することにより、コストをかけずに現地の生産過程を疑似体験することができるようになりました。

このようなVR研修には、生産者に対する理解の深まりや、その結果として社員のモチベーションがアップするなどの効果があるとされています。

「リテンションマネジメント」と並行して社内の業務効率化を

今回ご紹介したように、リテンションマネジメントは離職率の改善を実現するための有効な手段の1つです。

一方で、労働人口の減少などの要因により、将来的に企業が確保できる人材の母数は、これまで以上に少なくなっていくという予測も出ています。こうした課題を克服するためには飲食店における業務を効率化していくことも重要です。

飲食店における業務効率化の取り組みについては、次のような記事も用意していますので、高い離職率や人手不足で悩んでいる飲食店の方は、ぜひこちらもご一読ください。

次回の話題:人手不足は業務効率化で乗り切る!飲食店が導入すべきシステム3選

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