すっかり身近で使われるようになってきたAI(人工知能)。iPhoneのSiriやGoogle Home、Amazon Echoなどのスマートスピーカー、ルンバなどのお掃除ロボットと、生活に欠かせない存在になってきています。スマートフォンのカメラも、AIによって自動でノイズ除去や加工ができる製品が登場してきました。
しかし、これらはAIの実力のほんの一端を見せているに過ぎません。情報処理推進機構がAIビジネスの最新動向を解説している「AI白書2020」によれば、AIを実導入している企業はわずか4.2%。約70%の企業がAIを活用できる人材が不足していると回答しています。裏を返すと、AIを理解している人材はまだまだ希少であり、活用している事業者も少ないということです。
実際、AIについては誤解をされている部分もあります。「AIが仕事を奪う」と大きく論じられたことで、まるで何でもできる魔法のように考えている人もいるのではないでしょうか。
そこで本コラムでは、AIの基本に改めてフォーカスを当ててみました。何ができるのか、逆に何ができないのか、活用事例を交えてご紹介していきます。
「強いAI」「弱いAI」とは?
AIは、Artificial Intelligenceの頭文字をとった言葉です。そのため、日本では「人工知能」と訳されています。総務省の「平成28年版 情報通信白書」には「知的な機械、特に、知的なコンピュータプログラムを作る科学と技術」と記されていますが、実は専門家の間でも定義がそれぞれ異なります。
総務省「平成28年版 情報通信白書」https://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/ja/h28/html/nc142110.html
なぜそういう状況になるのでしょうか。原因のひとつは、「強いAI」と「弱いAI」があるからでしょう。「強いAI」とは、まるで人間のような意識を持ち、適切かつ総合的な判断ができるものを指します。「汎用型AI」とも呼ばれ、アニメなどのフィクションで登場するロボットのようなイメージです。まさに、人間にとって代わる存在となりえますが、残念ながらまだ実現していません。
「弱いAI」は、特定の領域で自動的な学習・処理ができるAIのことです。「特化型AI」ともいわれており、現在使われているAIはこれに該当します。「弱い」と称するとネガティブなイメージですが、逆にいえば限られた領域に関しては非常に強いわけです。画像に特化させたAIは音声の認識ができませんが、画像の判断に関してはスピード・質ともに人間では到底追いつけない力を発揮します。
AIの歴史と市場規模
AIの歴史は意外と長く、今から60年以上前になる1956年に、アメリカ・ダートマスで開催された「ダートマス会議」で人工知能プログラムのデモンストレーションが行われました。その後、様々なアルゴリズムが開発され、パズルなど高度な問題を解くことができるようになりました。チェスで人間に勝利するなど大きなトピックスもありましたが、目的を達するために必要な情報を、すべてプログラミングしなければならないため非常に手間がかかり、実用化へのハードルは高いとされていました。
そんな状況を大きく変えたのが「ディープラーニング」です。人間の脳の神経細胞(ニューロン)をモデルに設計されたニューラルネットワークを用いる学習方法で、データを与えれば自ら学習し、知識を獲得していく仕組みです。2016年には、「アルファ碁」がプロの囲碁棋士に勝利したことで、一躍AIが脚光を浴びることになったのです。
ちなみに、「ディープラーニング」が登場する前には「機械学習(マシンラーニング)」がありましたが、丁寧なデータの加工が必要だったため、情報処理にリソースも時間もかかっていました。その点、ディープラーニングは未加工のビッグデータからAIが自ら学習していきますので、一気に実用化へ近づいたというわけです。
この変化は、マーケットにも敏感に反映されています。富士キメラ総研の「2019 人口知能ビジネス総調査」によれば、2018年度のAIビジネス国内市場の規模は5,301億円、2022年度には1兆円を超え、2030年度には2兆1,286億円になると予測。伸びる業種としては、金融業や組立製造業、プロセス製造業、医療・介護業を挙げています。
AIができること、できないこと
事前に学習させた領域の「判定」が得意
具体的に、AIはどんなことができて、どんなことができないのでしょうか。前述したように、人間のように自ら総合的な判断ができる「強いAI(汎用型AI)」はまだ実現していませんので、「何でもできる」という理解は誤りです。
得意としているのは、決められたプログラムに従って分類することです。画像や音声などから、一定のパターンを判別することには長けています。最近だと、ビルや商業施設の入口に検温システムが設置されていますが、マスクの着用や発熱の疑いのある人のスクリーニングを可能にしているのはAIの技術です。
クリエイティブなアウトプットは苦手
AIが苦手としているのは、ゼロから何かを生み出すことです。現在、GoogleがAIを活用して新型コロナウイルスの感染予測をしていますが、これは天気予報と同様で、過去のデータに基づいたものです。まったく何も情報がないところから、必要なアウトプットを生み出すことはできません。情報が不足して適切な学習ができなければ、アウトプットの質にバラつきが生じるおそれもあるわけです。
画像、音声、予測……AIの活用分野
現在、AIの代表的な活用方法としては、「画像認識」「音声認識」「言語認識」の3つが挙げられます。そして、それらをもとにしたデータ分析によって「予測」ができるのも大きな特徴です。
画像認識
従来、コンピュータで自動的に画像認識をするには、色や形などを細かくプログラミングする必要がありました。膨大な手間を考えれば、コンピュータに任せるメリットが薄かったともいえます。その点、AIならデータを学習させることで、特徴を判定し分類できます。
当初は数千枚の画像を学習させて判定精度を上げていく手法が一般的でしたが、実用化までに時間も工数もかかるのがデメリットでした。現在は、「正しい画像」を学習させてそれ以外を検知させることで、導入までの時間もコストも削減する手法も用いられています。
音声認識
iPhoneのSiriやGoogle Homeなどですっかり身近なものとなったスマートスピーカーは、音声認識AIです。音声を空気の振動として捉え、テキストデータに変換する仕組みとなっています。
音声認識AIの精度は、かなり高くなっています。マイクロソフトは、2017年に音声認識システムの単語誤り率が5.1%を達成したと発表しました。これは人間の速記者と同等のレベルとのこと。確かに、スマートスピーカーを使用していると、かなり精度が上がっていることが実感できます。会議の議事録作成サービスや自動翻訳システムなども登場しており、ビジネスユースに耐えられるレベルだといえるでしょう。
未来予測
未来予測は、AIが実現させた“偉業”のひとつです。従来のデータ管理システムでは扱いきれなかったビッグデータを素早く、的確に解析できるようになったことで、非常に高精度な予測ができるようになりました。
非常に身近なところでは、大手電力会社が電力需要予測をAIで実施しています。誤差1%台と極めて精度が高いことが、安定した電力供給を可能にしているのです。また、回転寿司のスシローは、客数やネタの注文量などをもとにして、レーンに流すネタの種類や皿数を調整。食材のロスを極限まで減らしただけでなく、会計も自動化したことでスタッフ数の最適化も実現しました。このように、AIの適切な活用は経営全般にも好影響をもたらしています。
マーケティングでのAI活用がスタンダードになる時代へ
高精度な未来予測を可能にするAIは、当然のことながらマーケティングの分野でも大きな効力を発揮します。実際、広告コピーを自動生成するAIや、SEO対策をサポートするAIなども登場しており、これからのマーケターはAIに関する知見を有することが必須になってくるでしょう。Samuraiでは、幅広いニーズに合わせて様々なAIを組み合わせたソリューションや、画像認証などの技術のご相談にも積極的に対応していますので、ぜひお気軽にお問い合わせください。
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