クレジットカードやプリペイドカードなどを利用したキャッシュレス決済が、スマートフォンの普及に伴い、携帯端末を利用したモバイル決済として新たに広がりをみせています。
モバイル決済にもさまざまな方法が実用化されていますが、QRコードを利用した電子マネー決済も大きくシェアを伸ばしている状況です。とくに中国ではこの傾向が顕著で、中国国内で普及しているAlipay(アリペイ、支付宝)とWeChat Pay(ウィーチャットペイ、微信支付)の2016年の取引額は2.9兆ドル(約320兆円)と爆発的な伸びをみせています。
中国での爆発的な普及の背景
中国のAlipayやWeChat Payが普及した背景には、初期コストの安さと店舗が負担する決済時の手数料がほぼ無料で利用できると言う『安さ』に秘密があります。
また、日本ではなかなか考えられないことですが、中国では偽札が横行しており、消費者や店舗側にとって現金支払いには常にリスクが付きまとっているのです。このように、中国にはクレジットカード決済やモバイル決済を歓迎する下地が存在しました。
しかしながら、クレジットカード支払では、店舗が数%のクレジットカード利用料を、ユーザー側が年会費を支払う必要が有り、銀行振込みでは振込み手数料が発生します。これに対してQRコード決裁ではほぼ無料の手数料で決裁が可能。
クレジットカードなどの従来の支払方式では、取引双方の信用の確認や保証を与える運営会社が仲介することにより経費が発生していましたが、QRコード決済はその手数料で稼ぐビジネスモデルとは全く異なる仕組みとして登場しました。
QRコード決裁はAlipayやWeChatPayが直接銀行口座と結びつき、既存のネットワークやユーザー情報をもとに最低限のコストでの運用を実現。また、ユーザーの購買行動のデータはそのままAlipayやWeChat Payにとって有用なマーケット情報として蓄積されており、QRコード決裁サービス開始以前より数億人規模で存在していた利用者を中心に瞬く間に浸透していきました。
露店も導入できるQRコード決済
店舗側のメリットとしても、クレジットカードでは必要となる専用端末が、QRコード決済では不要であることが挙げられます。QRコード決済の方法には大きく2つの方式があり、一方は顧客のスマートフォンに決裁用QRコードを表示させ、店舗端末で読み取る方式。もう一方は店舗に表示されているQRコードを読み取り、表示された支払口座に任意で入力した金額を送金する方式があります。
後者では、店舗側にQRコードを印刷した紙を1枚貼っておくだけで決済を進めることが可能。中国ではコンビニやチェーン店はもとより、個人商店や露店などの小型店舗、自動販売機やチャリティーなどの募金などでもQRコードによる送金が当たり前になっています。
現在では、台湾や日本等、中国人観光客の多い国や地域でも、中国人向けの決済方法として導入が進むほど重要視されているほどです。
セキュリティの課題
爆発的な普及をみせているものの、QRコード決済には改善すべき点があります。もっとも大きな課題はセキュリティの確保です。
QRコードはリーダーで読み込まない限りどのようなデータが書かれているかを判読することが出来ません。店舗に置かれているQRコードに偽のシールを張り付け、店舗に支払ったつもりが知らない第三者の口座に送金されてしまうと言う事件が発生した過去があります。
この様な手法に対しては、顧客の端末に表示されたQRコードを店側で読み取る方式にすることで対策が可能ですが、店舗側に端末が不要となると言う大きなメリットを相殺することに。
店舗に掲示するQRコードをモニター上に表示することで、単純なシールによる上書きを抑止するなどの方法もとられていますが、セキュリティを高めるための根本的な対策が待たれます。
中国以外の海外事例
アメリカ「Walmart Pay」
欧米では、大手流通のウォルマートが2015年からWalmart Pay(ウォルマートペイ)のサービスを開始。Walmart Pay従来のクレジットカード決済やプリペイドのギフトカードサービスと平行して、QRコード決済機能が付与されています。
決済システムには既存のクレジットカードを経由するため中国式の決済とは異なりますが、Saving Catcher(セービングキャッチャー)と言う機能が好評を博し多くのユーザーを確保することができました。Saving Catcherは、ユーザーがウォルマートで購入した際のバーコードを読み取ることで、近隣の競合店の広告価格を検索し、競合店の価格の方が安価であった場合その差額をギフトカードとしてチャージしてもらえます。実店舗のサービスとオンライン情報を連携させた、顧客満足度を上げるよくできた仕組みでしょう
イギリス「YoYo Wallet」
イギリスのモバイルウォレット大手のYoYo Wallet(ヨーヨーウォレット)もiPhoneやAndroid上でQRコード決済可能なシステムを導入しており、北米やアジア地域への参入を急いでいます。
QRコード決済のメッカである中国のアリババが運営するAlipayは、日本国内での決済に対応している他、ヨーロッパや北米にも進出しています。
電子商取引の事業展開をするアメリカ企業「First Data」と提携し、約400万店舗で利用可能となった他、イギリスやロシアなどでもサービス提供を始めており、旺盛な中国人旅行客向けの需要を中心にグローバルでの市場拡大が加速しています。
各国で発展するQRコード
各国の国全体の取り組みや、地域やお店に限定したQRコード決済方法が確立されていくなか、その決済方法が海外に進出してきている状況です。
2020年の東京オリンピックに向けてインバウンドを意識した対応が日本に求められる中、こうした決済方法の対応は重要な項目としてウエイトを占めると考えられます。日本ではQRコードよりも、よりセキュリティがすぐれたFeliCaを使った電子マネー決済が普及しており偽札や手数料といった中国で普及したような課題がない、また海外の携帯も続々とFeliCa対応が進められていることを考えると、簡単にQRコード決済が普及していくかどうかは判断が難しいところです。今後も各国のQRコード決済事情への情報把握が必要でしょう。
次の記事:QRコード決済の日本事情、対インバウンド&低コストで拡大中。このまま日本で流行る?