人手不足や従業員の負担軽減、コスト削減などに期待されているビジネスモデルとして、国内外で導入が進められている「無人店舗」。日本では、大手コンビニや飲食店、一部のスーパーマーケットで無人レジを設置し客本人が商品のバーコードスキャンを行う、「レジの無人化」「セルフサービス化」が進んでいます。しかし、海外ではすでに無人店舗の市場が活発で企業の参入も激しい状態です。ここでは、今後店舗を運営するうえで参考にしたい、アメリカ発の「Amazon Go」や、中国の無人販売システムに関する仕組みや決済方法などをご紹介します。
無人店舗ビジネスとは?
セルフ化で人手不足を解消
無人店舗ビジネスとは、人間によるオペレーションが不要で、強固なセキュリティや販売・決済システムによって買い物が可能となる店舗です。常駐の店員を必要としない「ノンオペレーション」のため、労働人口数が減っている日本では人手不足を解消できる手段として有効でしょう。また、完全な無人状態にせずとも、一部をセルフ化することで従業員の負担を減らせるのがポイントです。
人件費、運営費用などのコスト削減
無人店舗は、運営に欠かせない従業員やスペースに関わるコストの低減にも一役買っています。具体的に述べると、住宅地の小面積設置されたコインランドリーや自動販売機などの無人店舗に比べると、有人の店舗では、従業員スペースが必要です。レジ、休憩室など有人の業務を想定したスペースが縮小できれば、そのぶん商品陳列に充てることができ、店舗設置の初期費用を削減することができます。
以上のことから、「人件費」「初期費用」などランニングコストが抑えられるため、トータルの運営コストを削減でき、出店ハードルが下がるうえに人手不足の心配も軽減されるということです。店舗を監視するシステムやトラブル対応などの仕組みが整備できれば、今後の日本にとって必要不可欠なビジネスモデルとなるでしょう。
アメリカの無人販売
無人レジ「Amazon Go」
2018年1月22日、アメリカ・シアトルに1号店としてオープンした「Amazon Go」。2016年12月に「レジに人がいないコンビニ」としてアイデアが発表され、2017年にはテスト店舗として従業員のみに公開。翌年本格的なオープンに漕ぎつけました。
「Amazon Go」の利用方法は、スマートフォンに専用アプリをダウンロードすることが必要です。まず入り口ゲートにスマートフォンをかざしてアプリを読み込ませます。入場した後、店内で商品を手に取りますが、その際店内に複数配置されたカメラとマイク、そして棚に設置されたセンサーによって客の動きを検知します。商品を手に取った動き、商品を棚に戻した動きを検知し、アプリ内に商品の名前と価格が表示されるシステムです。その後商品を持ったままゲートから退場すればアプリ内で購入・支払が完了。
人が介在するのは仕入れや品出し、セキュリティ関係に限られますが、これだけでもかなりのコスト削減になるでしょう。店舗内では調理スペースがあるので、食品に関しては無人とはいえ新鮮な商品を購入できます。接客コストが削減されたぶん、システムの強化や商品の充実や質向上にリソースを割けそうです。
機械学習の陳列「Bodega」
次に紹介する「Bodega」は、元Google社員が立ち上げたスタートアップ企業による無人コンビニです。通常コンビニではどのような商品を陳列するのか、責任者や店員が経験やデータをもとに決定します。しかし、Bodegaは利用する人や地域をデータとして管理し、機械学習によって地域に合わせた商品を陳列する仕組みです。
商品は、家具のような「棚」に陳列されており、カギがかかっています。購入する際は、専用アプリでロックを解除し商品を入手。その後アプリ内に登録されているクレジットカード宛に請求が来るというシステムです。Amazon Goと比べると、かなり小規模ですが無人販売であればここまでコンパクトに出店できるということでしょう。
信用スコアで犯罪防止「Bingo Box」
アジアの大国中国では、国全体で無人店舗の開発競争が激化しています。その中でもとくに有名なサービス、2016年8月に1号店がオープンした24時間営業の無人コンビニ「Bingo Box」をご紹介します。
Bingo Boxは店舗自体にカギが掛かっており、解除するにはWeChatアカウントIDが紐づいた専用アプリを起動して入店。商品の決済は、タグの付いた商品をレジに通し、中国で普及率の高い「WeChat Pay」や「Alipay」の電子マネーを利用して支払います。最後に通過する出口前では、利用者が持った購入品をセンサーが読み取り、決済時の情報と照合し万引きを防止します。店舗から退場後は自動的に施錠される仕組みです
Bingo Boxのセキュリティ意識は高く、店舗の隅々まで死角のないように配置された監視カメラとセンサーをWeChatアカウントIDに紐づけし、顔認証による本人確認を行います。
そして、最大の特徴ともいえるのが、Alipayを提供するアリババのサービス「信用スコア」です。アリババのサービス利用状況に応じてスコアリングされるシステムで、万が一会計をしない商品を持ち出そうとすると「Bingo Box」の場合アプリに警告が出ます。もしその警告を振り切ったとしても、WeChatでID認証されているために、その後信用スコアが落ち、公共交通機関に乗れないなどの社会的、経済的なペナルティが課されます。その強固なセキュリティのおかげか、今までに窃盗などの問題は発生していないようです。
ちなみに、Bingo Boxの店舗は底面に取り付けられたキャスターで移動させることが可能。初期費用、運営費用を抑えて、すぐ設置・開業できる店舗です。
「無人」ゆえの課題点
大きな可能性と販売スタイルの広がりが期待される無人販売ですが、まだまだ課題はあります。
1つ目は決済の課題です。電子決済はここ近年急速に拡大していますが、電子決済に不慣れな層をどのように取り込むかです。とくに現金主義の日本では大きな課題でしょう。
いくら便利なモノを取り入れても、利用されなければ意味がありません。
そして、クレジット審査が通らない若年層にどのように利用してもらうかということも課題です。
2つ目はセキュリティの課題です。Bingo Boxでは窃盗の問題は今のところ発生していないと紹介しましたが、どのような抜け穴があるかわかりません。無人ゆえの万引きや、他人の端末を利用して無断で決済することには十分な注意が必要です。また、無人ゆえに消費者への対応を、いかに迅速かつ的確に行うかが課題となりそうです。
無人店舗の将来性
現在さまざまな業種で、レジ対応の無人化進んでいます。前述の無人店舗はすべて海外のものですが、日本でも無人店舗経営の領域が拡大すれば、今後ますます電子決済の重要性が高まっていくでしょう。あわせて、従業員への負担が少ないサービス形態へと変化していくことが予測されます。
日本のコンビニ業界や小売店でどのように導入されていくのか、今後も注目したいところです。