近年、スーパーやコンビニエンスストアといった小売店を中心にセルフレジが普及しつつあります。そんな、セルフレジは小売店の業務内容に大きな変化をもたらす可能性があります。
そこで、本コラムでは、セルフレジの特徴や種類、小売店が導入するメリット・デメリットを解説します。
セルフレジには2つの種類が存在する
セルフレジは、「フルセルフレジ」と「セミセルフレジ」の大きく2種類に分類できます。
フルセルフレジは、買い物客が商品バーコードの読み取りから精算まで行います。
一方で、セミセルフレジはバーコードを読み取るスキャン機と会計機が分かれており、買い物客は会計機での決済のみを行います。
当初、日本に登場したのはフルセルフレジでした。2003年に、イオングループが“レジ待ち”の解消策として導入したのです。しかし、バーコードの読み取りに慣れていない買い物客が多く、結果としてあまり定着しませんでした。
その後、従来どおり従業員がバーコード読み取りを行うセミセルフレジが登場しました。買い物客にとっての負担が少なく、バーコードが読み取りにくい場合や、タイムセールでバーコード対応していない割引商品にも従業員がすぐ対応できるため、“レジ待ち”の解消に期待をした店舗が導入を進めています。
一般社団法人全国スーパーマーケット協会などの調査(※)によれば、2016年は28.6%だった設置率が、2018年には54.6%に上昇しています。特に、多店舗を展開する企業は設置率が高い傾向が見受けられます。今後「設置数を増やしたい」としている企業も41.0%となっており、今後さらに「セミセルフレジ」が台頭しそうです。
(※)平成30年 スーパーマーケット年次統計調査報告書
http://www.super.or.jp/wp-content/uploads/2018/08/H30nenji-tokei.pdf
セルフレジ導入のメリット
前述したように、小売店にセルフレジを導入することで、買い物客のレジ待ち時間を短縮できます。また、1台の商品スキャン機に対して複数の会計機を設置することで、後ろに並んでいる買い物客を気にして精算を焦る必要がなくなるのも大きなポイントです。結果として小売店側は、顧客満足度の向上を期待することができます。
また、セミセルフレジは商品バーコードの読み取りを従業員が行うため、「代金のお預かり」「レシートと釣り銭のお渡し」などが不要で、レジ業務のスピードを改善することもできます。従業員が現金を触る必要がなくなるため、衛生環境の向上にもつながるでしょう。
さらに、レジ業務のスピードが上がることで、レジ台数圧縮などのコスト削減効果や人員の最適化にもつながるほか、レジ業務に割いていた時間を別の業務に充てることもできるため、生産性を向上できるというメリットがあります。
セルフレジ導入のデメリット
フルセルフレジの場合、操作に慣れていない買い物客がいることを想定する必要があります。また、レジの機械トラブルや万引き対策のためにも、サポートする従業員を近くに配置しなければなりません。
さらに、年齢確認が不十分になってしまうのもフルセルフレジのデメリットです。たとえ年齢確認が画面に表示されるタイプのレジでも、買い物客の「自己申告」に頼らざるを得ないため、特に酒類を取り扱う店舗には適しません。
そのため、このような課題が懸念される場合には、セミセルフレジの導入が適しているでしょう。
ただし、セミセルフレジについても、高齢者や障害者への対応には注意が必要です。セミセルフレジの会計機はタッチパネル式が主流ですが、買い物客が操作できない可能性もあるからです。そうした買い物客にも対応できるように、従来型レジを残して併用するなど、多様なニーズを考慮した店舗設計をすることが重要です。
コンビニでもセルフレジ化が進む
スーパーではセミセルフレジが主流になりつつありますが、フルセルフレジ化を進めている業態もあります。
例えば、コンビニエンスストアでは、主にJR東日本の駅に出店しているNewdaysが2019年7月にレジ無人化の店舗をオープン(NewDays 武蔵境 nonowa口)。Suicaなど交通系電子マネーやクレジットカードが使用できるキャッシュレス型のセルフレジのみを設置することで、従業員は品出しや商品の案内に注力できるようになります。
また、コンビニ大手のローソンは、2019年10月にセルフレジを全店(全国1万4,000店)で導入する予定です。すでに全店で通常レジとセルフレジが切り替えられるようになっており、2019年7月から徳島県内の店舗で運用実験を開始。さらに、事前に専用アプリをダウンロードしておけばレジを通さず買い物ができる「ローソンスマホレジ」の導入店舗も、2019年10月までに1,000店舗まで増やす方針を明らかにしています。
この「ローソンスマホレジ」の原型ともいえるのが、アマゾン・ドット・コムがアメリカで2018年1月にオープンさせた完全無人ストア「Amazon Go」です。この店舗では、専用アプリをダウンロードして入口でスマートフォンをかざすことで、レジでの会計をせずに好きな商品を手にとってそのまま外に出ることができます。
こうしたレジ業務の効率化が進む背景には、とりわけ小売業で深刻な人手不足があります。2018年に農林水産省が発表した調査によれば、全産業の欠員率が2.1だったのに対し、小売業は2.9と高い数値でした。
今後さらに高齢化が進み、生産年齢人口が減少していくことが確実視されている今、大幅な人員補充は望みにくい状況です。賃金の問題からも業務効率化が求められるなか、対策の第一歩として、今後もレジ業務の見直しが進んでいきそうです。